ブンキテン
Life日常 / 個人の記録

エレベーターの隙間にスマホを落としたことがあるかい?

8年前、前職の会社でiPhoneをエレベーターシャフトに落下させかけた男の話。そしてエレベーターにまつわる豆知識。

text by 原 奈都良
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エレベーターの隙間にスマホを落としたことがあるかい?


私はある。




8年ほど前のことだ。前職の会社で荷物を運んでいた。両手がふさがっていて、iPhoneは胸ポケットに入れていた。エレベーターに乗り込んで、床に置いた段ボールを整理しようとかがんだ瞬間——ポロリ。


スローモーションで見えた。あのiPhoneが、胸ポケットからすべり出て、エレベーターの隙間に向かって、弧を描きながら落ちていくのが。


「終わった」と思った。本当に思った。シャフトの奥底に消えて、二度と会えないやつだと思った。


しかし奇跡は起きた。


エレベーターの床とホール床の間にある、わずかな金属の出っ張り——通称「シル(敷居板)」——にiPhoneが引っかかったのだ。縦向きに、ちょこんと。奈落の一歩手前で、かろうじて止まっていた。


手を伸ばして回収したとき、心拍数が戻るまでしばらくかかった。




エレベーターの隙間、その正体

実はあの隙間、日本の建築基準法で30mm以下に定められている。ざっと3センチだ。薄い財布なら余裕で落ちる。スマホはモデルによる。ギリギリのラインを攻めているのが「エレベーターの隙間」という存在だ。


そしてあの縁——「シル」と呼ばれるL字型の金属——は、ドアが正確に開閉するためのガイドレールでもある。偶然にも物をキャッチする構造になっており、私のiPhoneはここに救われた。ちなみに隙間を塞ぐ専用のカバー製品も存在するが、普及率はまだ低い。


エレベーターのシャフト(昇降路)の底には「ピット」と呼ばれるスペースがある。深さは一般的に1〜2メートル。スマホが転落した場合、最悪ここまで落ちることになる。回収には保守業者の立会いが必要で、費用も時間もかかる。そう考えると、あのシルがどれだけありがたい存在かわかる。


余談だが、エレベーターの安全装置といえば「調速機」が有名だ。ワイヤーが切れるなどして異常な速度になると自動でブレーキがかかる仕組みで、これはエリシャ・オーチスが1852年に発明して以来の基本原理だ。現代のエレベーターは複数のワイヤーと複数のブレーキを持ち、1本切れたくらいでは落下しない。映画の嘘をひとつ暴いておく。


ちなみに日本のエレベーター台数は約100万台以上で、これは人口比でみると世界有数の密度だ。毎日あれだけ乗り降りしているのだから、シャフトに落下するスマホの数もそれなりにあるはずだ。あなたの周りにも一人くらいいるかもしれない。




あの瞬間、私はセーフティネットに救われた。


8年後、今度はブンキテンというメディアを立ち上げた。毎日の出来事や考えを、ここに落としていく。隙間に消える前に、拾いに来てほしい。


セーフティネットに拾われた、7260のブンキテン。

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